租税について考える

今回、国会が解散され総選挙になりましたが、解散の屁理屈ではあるのだけど、消費税の問題があります。8%なのか10%なのか、いつ引き上げるのかなど様々な問題点が提起され論じられています。

他の提言、「何故借金大国になってしまったのか」の中で述べているように、我が国はヨーロッパなどとは違って戦後、租税は低くして個人、企業の貯蓄を増やし、その貯蓄をもとに世界でも類をみない経済発展を成し遂げたのは事実です。

ただ、1970年代からの社会保障費の増大、高度成長の終焉とともに本来であれば租税、社会保障体系を変えていかなければいけなかったのにそれを避けて通ってしまい今日に至っているのです。

今、国会議員が消費税についてああだこうだと、相も変わらず自分たちの国会議員としての身分の継続のためにいろいろ都合のいい、国民受けのいい適当な話をしています.

私は思うのですが、私たち主権者にとって実際問題、本当に真剣に考えなくてはいけない時なのです。選挙などどうでもいい話です。

他の提言でも述べていますが私たちにはそんなに時間がないのです。

消費税を考えるとき、物事はすべてそうなのですが、私が提言の中でよく述べているように個の中に全体があります。

消費税も租税の中の一つであるということを忘れてはいけないのです。

消費税を考えるときに消費税だけを考えて景気がどうなるだとか国会議員のように考えて行動すると来年には又ああだこうだと無駄な時間を費やすだけになってしまうのです。

これだけ1970年以降、借金大国になっている現実の中で学習能力の低さにはあきれ返ってしまうばかりです。

消費税を考えるということは租税体系全体を、後から述べますが社会保障含めた国家財政全体を考えないといけないのです。

そういった意味で租税とは何なのかからお話ししてゆきましょう。(以下、現代租税の理論と実践に沿ってお話しするので詳しくはそちらをご覧ください)

租税とは国家にとって国民に対して様々なサービスを行ったり、海外から我が国を防衛したり、海外の困っている人々にサービスを提供したりするための財源として国民から強制的に徴収する税収という意味があります。

憲法30条でも納税の義務として定められています。

租税の持つ本質的機能として上に上げたいわゆる税収としての機能のほかに大きなものとして国民の所得の再分配機能というのがあります。

世の中には貧困の格差がいつの時代にもあり、昨今、格差社会の拡大が問題となっていますが、そういった意味で格差社会是正のための再分配機能としての租税も考えないといけないのです。

そういった観点から租税を考えていってみましょう。

租税には所得税や法人税などの直接税と消費税などの間接税があります。

我が国においては1989年に一般消費税が導入されましたが、所得税、法人税についてはリーマンショック前を除けば1990年以降税収は下降の一途をたどっています。

税収が下降していっている原因としては当然、バブル崩壊などの原因もありますが政府が幾たびも行ってきた減税政策も大きな要因となっています。

最高限界税率(所得税法上の最高税率)の引き下げ(1989年には76%から65%へ、1999年には65%から50%へ引き下げる)、配当などの資本所得が労働所得に対して10%と低い軽減税率だった。(2014年度から20%)、給与所得控除など数多くの控除措置がなされた。

これらの減税措置は特に高額所得者に対して有利に働いたと言えます。

我が国の租税の流れをまとめてみると、もともと、企業、個人への租税を減らして貯蓄を増やす政策の上に、高度成長期終焉、国会議員の保身のために国民受けのいい様々な減税措置を行った。

結果として税制の最大の目的である税収は減っていった。

法人税の軽減、所得税のフラット化の一方で社会保険料の増大、付加価値税(消費税)の増大などを行い、税制の大きなもう一つの目的である所得の再分配機能も低下していった。

世界の税制の流れの中をみても付加価値税と社会保険料の重要性が増している一方で所得の再分配機能の低下が盛んに言われるようになってきている。

それでは次に付加価値税(消費税)について考えてみましょう。

消費税の利点として課税ベースが広い。経済活動に与える歪みが少ない。税収調達能力が高いことなどがあげられます。

一方、欠点としては逆進的な性格が強い(低所得者に不利)などが言われています。そのため多くの国では、一部のものについてはゼロ税率、軽減税率、非課税処置を行っています。

イギリスでは1973年に消費税が開始され、2011年には税率20%になっていますが非課税品などが多いため課税ベースが狭くなってしまっています。

一方、1980年以降に導入した第二世代付加価値税導入国であるニュージーランドは単一税率で行っています。

消費税率に関して、我が国でも、複数税率が昨今言われていますがどちらが良いのでしょう?

低所得者対策という意味合いで複数税率が言われることが多いと思われますが、一見、正論のように見えますが複数税率に対する批判を見てみましょう。

  1. 逆進性対策としての公平性目的というが、生涯賃金の変動を考慮していないのではないか。人は一生涯同一の所得ではないのだから、良いときがあれば悪い時もある。
  2. 高所得者は食料品などについて言えば絶対額としては大きく高所得者に恩恵がいってしまう。
  3. 何を軽減化、非課税にするかなど基準があいまいでロビー活動など複雑化し行政コストもかかる。
  4. 非課税、軽減税率により租税の本来の機能である税収調達能力が落ちてしまう。

 

私は思うのですが基本的には租税の本来の目的である税収目的を考えた時、基本的には単一税率が良いと思う。

ただ、その際、考えておかないといけないのは、まづ消費税そのものが逆進性の性格をもつものだということです。

ニュージーランドやデンマークにおいて単一税率でやっていけているのも国民の合意のもと所得税や社会福祉システムで逆進性税制をカバーしているからです。

近年のOECDやIMFレポートも単一税率を採用した上で所得税や社会保障での再分配を主張しています。

今度は、税制度全体で見てみましょう。

所得税がいいのか消費税がいいのか?

世界的な流れとしては所得税などの直接税から消費税などの間接税への流れがあります。

二つを比べてみた時、効率性、行政コストからみたらどちらかはっきりしません。再分配機能から見た時には所得税でしょう。また、富に課税するというのであればやはり所得税でしょう。

近代国家の租税の歴史を鑑みてみると国家の課税権と私有財産制度との矛盾の中で試行錯誤されてきたと思う。

近代国家の租税を考えるうえでのポイントとして

  1. 民主主義の視点 民主主義のすべての権力は説明責任を持つが私的権力は説明責任を持たない。
  2. 平等の視点 資本主義社会では貨幣が支配的な財で貨幣を持つものが他の分野でも権力を蓄積しやすいためそれを阻止するためには機械的な平等の意味で単純な自由ではなく複雑な自由が必要である。
  3. 所得課税を通じた再分配が限界を持つことも仕方ないが消費税が富の蓄積に対して無力であることは明らかである。

 

現在のように資産家が使い切れない資産を保有する資本蓄積が進展している世界の中で貯蓄を延期された消費と観念することはできないと思う。

蓄積された富は社会的、政治的な権力と結びつきやすく民主主義社会では私的権力の過剰な蓄積を抑制しなければならないと思う

 

そうした観点から我が国の税制度を見た時、私は、消費税をいつ、いくら上げるかということよりも1000兆円を超える国家債務、増え続ける社会保障費、より拡大している格差社会すべてを考えた税制度を根本的に見直さないといけないと思うのです。

そういった意味で税制度全体の見直しの提言をまとめておこうと思います。

  1. 再分配機能強化としては税制度の中では所得税の再認識、最高限界税率の引き上げ、
  2. 控除の見直し。
  3. 貨幣の権力抑制のための、所得、消費、資産の課税ベースの見直し、相続税などの引き上げなど。
  4. 国家債務、社会保障費用などを考え、税収入の確保のためには消費税の単一税率と税率の引き上げ。
  5. 基本的には税制度の中だけでの再分配は限界があり、社会保障において調整をはかることが不可欠であり、その際には所得中間層からの不満も考慮して普遍的社会サービスの提供が貧困層への選別的主義的な現金給付より格差、貧困解消に効果があると思われる。

 

我が国にはそんなに時間がありません。

選挙などのんきにやっている暇はないのです。特に民主制を否定しているような選挙はもってのほかだと思う。

そんな彼らだから、そしてそんな彼らを選んでいる私たちもそんな人たちだから、このような世の中になってしまっているのです。

他の提言でも言っていますが資本主義という手段を有効に用いて餓死のない、便利な社会を作り上げられたことはよかったとは思います。

ただ、私たちが忘れてしまったことは所詮、貨幣とは手段にすぎず、目的にはならないということです。

他の提言でも述べているように確かに憲法29条で財産権は保障されています。ただし公共の福祉による制限も受けています。

私は思うのですが私有財産制度は原則として守られるべきことだと思う。生物の本能であると思うから。

ただ、一方では格差社会の中で富が富を生み、それが国民一人一人の機会の平等を侵害してきていると思う。

そうした中で税制度を考えてみると単に消費税だけ考えても全く意味のないことなのです。

低所得者への再分配機能のため、所得税の累進課税、最高限界税率の引き上げは不可欠で所得税は現代においても中心となる祖税であると思う。

法人税についてもグローバル化の中で資本の呼び込みのため税率競争となっていますが我が国においては特に大企業においては賃金に回らず企業の内部留保に回ることが多いと思われ税制度上も検討が必要と思われる。

消費税については単一税率で課税ベースも可能な限り広げるべきだと考えます。租税とは何かという原点を考えた時、これしかないと思う。

ただし、再分配機能としての社会保障、福祉政策があっての上です。そのためには国民の合意が不可欠である。

そして、国民の合意を得るためには何が必要かというと、

租税制度を決める国民の代表者たる国会議員の良識です。

己の欲を捨てた他者のために生きる代表者としての誇りです。

私が他の提言で今、私たち国民が苦難に堪えなければいけないと言っていることとはそういうことなのです。

これからの我が国の租税制度を考えていくとき、必要なことはたった一つなのです。

私たち、一人一人の中に、個の中に全体があるという認識です。

ただそれだけのことなのです。

最後になりましたが租税についての考えに共鳴し、多くのことを学ばせていただき提言の中にも引用させていただいた「現代租税の理論と思想」を執筆された先生方にこの場を借りてお礼申し上げます。

 

2014年11月24日  文責 世界のたま  sign

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です